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森林保全事業
Forest Preservation Activities


東京農業大学レポート2001年版

野生エゾシカの餌付け手法による
樹皮食害防止の試み(2001年度;3年目)

―餌場を基点とした行動範囲とビートパルプペレットの採食性―


東京農業大学 増子孝義・福井絵美・高崎ゆかり・春上結希乃・北原理作
池田鹿実験牧場 佐藤健二
前田一歩園財団 高村隆夫・西田力博

目的

阿寒湖畔に約3600haの森林を所有する前田一歩園財団では、1999年度に餌付けを開始してから3年目を迎えた。餌付けによる樹皮食害防止効果は、一時的とはいえ著しく効果が現れた。2年目の2000年度の調査では、餌付けによる餌場への誘引力、餌場利用・依存個体数の増加が確認され、初年度とは明らかに異なった。また、餌場を基点とした行動範囲や現在使用している飼料の製造中止など新たな課題が残された。そこで本研究では、基礎調査として3年目の餌付け試験を継続するとともに、密集する餌場を基点とした行動範囲や代替え飼料としてのビートパルプペレットの採食量などの調査を行い、3年目における餌付けの影響を検討した。

方法

餌場設置;餌付けの給餌飼料は、ビートパルプ(約60kg、直方体タイプ)を使用した。設置期間は2002年1月〜2002年4月下旬までとした。飼料は阿寒湖北西部(19ヵ所)、雌阿寒岳入口(1ヵ所)及び国道南部沿い(4ヵ所)の森林内計24ヵ所に設置した。2002年3月に有害駆除なしの地区をA地区、1ヵ月有害駆除を行った地区をB地区とした(図1)。

調査内容;樹皮食害の割合、北西部の餌場19ヵ所に群がるエゾシカの個体数、ビートパルプの設置個数を調査した。また、昨年度と同様に、餌マーカー法により餌場2ヵ所を基点として、北西部および国道南部沿いまでの範囲においてエゾシカの行動範囲を調査した。また、餌場1地点において、2月と3月の各1回ビートパルプペレットとブロックの1日の採食量を測定した。

結果

1.樹皮被害の割合;3年目における餌付け前後の樹皮食害の割合を示した(図2)。餌付け前では、調査区域によって、かじったもの〜全周までが約10%の範囲にあった。餌付け後では一部の区域で、かじったもの〜半周被害にあったものが確認されたにすぎず、著しく被害が減少した。

2.餌場に群がるエゾシカの個体総数の推移;餌場に群がるエゾシカの個体総数を2000年度と2001年度で比較した(図3)。餌付けを開始した1月14日の2週目から個体数が増加し、3月の3週目に減少しているのは、3月の1ヵ月間有害駆除があったためである。

3.ビートパルプの設置個数;ビートパルプの設置個数を2000年度と2001年度で比較した(図4)。2月に入ってから設置個数が急激に増加した。これは、2月前半の積雪深が(50cm)平均積雪深(30cm)を上回り、使用個数が増加したこと、また餌場に群がる個体数の増加により採食量も増加したことなどの要因が考えられた。

4.餌場を基点とした行動範囲;95(基点1)と77(基点2)林班の餌場2ヵ所を基点にそれぞれ1回行動調査を行った(図5)。昨年度と同様に、基点1から0地点までの林道沿いおよび国道までの沢沿いにおいてマーカーが確認された。基点2では、両隣のA地点付近およびC地点の餌場までの沢沿いにおいて確認された。また、仏夫子橋の沢付近において確認された。

5.ビートパルプペレットの採食性;餌場1地点において、2月と3月の各1回ビートパルプペレットとブロックの採食量を測定した(図6)。2月にはブロック、3月にはペレットの方が多く採食され、異なる傾向が認められた。