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森林保全事業
Forest Preservation Activities


東京農業大学レポート2000年版

野生エゾシカの餌付け手法による
樹皮食害防止の試み(2000年度;2年目)

―餌場を利用しているエゾシカの行動範囲―


東京農業大学 増子孝義・春上結希乃・高崎ゆかり・福井絵美・森野匡史・北原理作
池田鹿実験牧場 佐藤健二
前田一歩園財団 高村隆夫・西田力博

目的

野生エゾシカの越冬地として最大規模である阿寒湖畔では、エゾシカが樹皮を剥ぐことによる林業被害が深刻である。阿寒湖畔の森林を所有・管理している前田一歩園財団では、1998年には被害額が1億円にも及んだ。これまでに被害対策として、プラスチックネット巻き、被害木給与、有害駆除などを実施してきたが、いずれの方法も最善策には至らなかった。冬期間の樹皮食いは、極端な餌不足が原因であることから、新たな対策として1999年12月から2000年4月まで餌場を設置し、餌付け手法による樹皮食害防止を試みた。前回の発表会では餌付け1年目の調査により、樹皮食害防止に極めて有効であることを報告した。本研究は餌付け手法2年目の調査から、餌付け継続がエゾシカの採食に伴う行動について初年度と比較検討するとともに、新規の調査として餌マーカー法によるエゾシカの行動範囲を調べた。

方法

餌付け場所;阿寒湖北部山林パンケ林道沿いを対象に19ヵ所、国道南部及び雌阿寒岳入り口付近を対象に6ヵ所、合計25ヵ所に設置した。2001年3月に有害駆除を行わなかった地区をA−1地区、A−2地区、有害駆除を行った地区をB−1地区、B−2地区とした(図1)

餌付け飼料;ビートパルプブロック(約60kg)を使用した。製品の単価は1,750円/個である。
餌付け時期;2001年1月5日〜2001年4月下旬までとした。また飼料の補給は財団職員が毎日餌場を見回り行い、常時飼料がある状態にした。
調査内容;ビートパルプの設置個数、北西部の餌場19ヵ所に群がるエゾシカ個体数、樹皮食害の割合を調査した。また餌マーカー法により地点1を基点として、地点0〜12および国道付近までの範囲においてエゾシカの行動距離を調査した。

結果

1.ビートパルプの設置個数;ビートパルプの設置個数を1999年度と2000年度で比較した(図2)。1999年度は餌付け開始1年目であり、シカが餌に付くのが遅く設置個数が少なかった。2000年度は給餌した直後の1月前半より採食を開始し、1月後半には設置個数が120個を超えた。2月と3月においても1999年度の2〜5倍多く推移した。これは餌場に群がる個体数の増加に伴い採食量が増えたことと、餌場を5ヵ所増やしたことが要因と考えられた。

2.餌場に群がるエゾシカの個体総数の推移;餌場に群がる個体総数を1999年と2000年度で比較した(図3)。2000年度において1月から徐々に個体数が増加している。3月3週に急激に減少しているのは、有害駆除が行われたためであり、4月に増加しているのは、周辺から移動して集まってきていることが要因と考えられた。2000年度は1999年度に比べ、餌付け期間を通して餌場に群がる個体数が増加しているといえる。

3.樹皮食害の割合;餌付け開始前と餌付け期間中に被害にあった樹木の割合を示した(図4)。餌付け期間中の被害はかじった程度のものが1ヵ所で確認されたにすぎなかった。

4.地点1を基点としたエゾシカの行動距離;地点1を基点としたエゾシカの行動距離を4ルートにおいて調査した(図5)。地点1から両隣の地点0、地点2または国道付近まで行動していることが確認された。移動は距離にして 地点0までの約990m、地点2までの約2660m、国道付近まで約830mであった。地点2より北部に位置する地点12までの餌場には、マーカーが発見されなかった。