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自然普及事業
Natural Environment Conservation Activities

2008年度(平成20年度)自然環境保全活動助成事業報告


野生化アライグマの効率的捕獲手法の開発

 アライグマ研究グループ

 アライグマ研究グループでは、これまで道立自然公園野幌森林公園を主なフィールドとして、箱ワナによるアライグマの密度低減効果について検証を行なってきました。検証の結果、当該地域内に生息するアライグマは、箱ワナによる継続捕獲によって、毎年1〜2頭/km2程度まで減少することが明らかになりましたが、一方で、
(1)農作物や山の果実類などの餌資源が豊富となる秋季から、半冬眠状態になる冬季にかけて著しく捕獲効率が低下すること
(2)取り逃がし個体の繁殖活動や外部地域からの流入個体により、翌春までに生息数が復元すること
などの課題も明らかになりました。アライグマの地域的根絶を図るためには、特に繁殖前の冬季間にメスを効率的に除去することが有効であると考えられますが、妊娠中のメスは特に誘引餌への反応も悪く、箱ワナによる捕獲だけで地域内の更なる低密度化を進めることは容易ではありません。


巣穴型ワナ



アライグマ捕獲実験

 そこで本事業では、繁殖期のメスが越冬・繁殖用に樹洞などの巣穴を必要とするアライグマの習性を活かして、巣穴型ワナを開発し、その実用化試験を行いました。また、見回り労力の削減のため、GPS機能を有した携帯端末を利用し、捕獲時の自動通報システムの開発と検証を行いました。巣穴型ワナの形態については、原産国で実用実績のある木製巣箱を参考にし、アライグマ自身の加重により作動するトリガーの仕組みを開発しました。巣穴型ワナの試用試験は、繁殖時期に痕跡などによりアライグマの生息が確認できた江別市内の農家敷地内で行なった他、旭川市立旭山動物園の協力を得て、飼育ケージ内部の高所に設置した巣穴型ワナに対する飼育個体の反応を観察することで行いました。ワナ内のアライグマの行動については、自動撮影装置により記録しました。一方、捕獲時の自動通報システムの開発については、江別市と当別町に設置した箱ワナとエッグトラップにGPS端末を付帯したシステムを開発し、実用可能性の検討を行いました。

 巣穴型ワナの開発については、実験期間中に野外に設置したワナでの捕獲は確認できませんでしたが、動物園で行なった飼育下実験では、設置後1晩でアライグマを捕獲、翌朝まで拘束することに成功しました。実験結果から、アライグマが餌なしでもワナが提供する空間自体に誘引されること、及びワナのアライグマ拘束能力が捕獲具として十分に実用に耐えるレベルであることが実証されました。一方で、フクロウなどの大型鳥類の錯誤捕獲防止機能の有効性については、フィールド実験でのデータ不足から十分に検証できず課題が残りました。一方、捕獲時の自動通報システムの開発については、エッグトラップにGPS端末を付帯したシステムによって、合計9頭のアライグマを捕獲することに成功しました。実験期間中、排雪作業車による大量の雪の投棄や大雨による設置河川の増水、強風による倒木などの影響により数回の誤報がありましたが、逆に捕獲時の非通知エラーは1度もなく、自動通報システムとして本法の有効性が確認されました。



「新山川草木を育てる集い」創立20周年記念誌の発行

NPO法人 新山川草木を育てる集い

 当会の前身「北海道ボランティアレンジャー 山川草木を育てる集い」は、東京大学名誉教授 高橋延清先生(通称どろ亀さん 平成14年逝去)と野月筆雄氏(通称荒馬さん 平成15年逝去)によって平成元年に創設されました。「自然環境の劣化は大きな速度で進行している。この進行速度を抑制するために誰でもまた一人でもできる活動を」というどろ亀さんの教えにもとづき、小樽市の朝里ダム採石跡地の緑化から出発し、全道に植樹活動を展開してきました。平成15年野月代表の急逝をうけて、NPO法人を目指す新組織としてスタートしました。これまで20年間の活動について、データ・現状を整理し今後の活動の参考にし、友誼団体や同様のNPO法人にも提供したいと考えています。

20周年記念誌
 平成21年4月4日完成
 A4カラー、127ページ、1,500部
・行政機関、教育、林業関連団体関係者からの寄稿
・上部団体・友誼団体関係者、会員からの寄稿
・20年の歩み(年表)
・各地区の活動紹介


20周年記念「どろ亀さん記念・当別22世紀の森」第5回育樹祭
 平成20年9月21日(日)開催
 通例の行事に20周年記念をタイトルとし、どろ亀さん・荒馬さんのご家族、北海道水産林務部・建設部の関係者、設立当初から縁の深い方々をお招きし開催しました。ヤチダモ・ハルニレの記念植樹、ネズミの食害対策ネット巻き、雪害対策支柱たて、過去の植裁地見学を行い経過などを説明しました。そして、20周年記念誌の寄稿要請及びデータ収集を呼びかける場としました。


育樹祭ネズミ食害対策ネット巻き

H20育樹祭集合写真

設立20周年祝賀会(記念誌の配布)
 平成21年4月19日(日)開催  ホテル ポールスター札幌
 北海道水産林務部・建設部の関係者、林業関連団体・上部団体、友誼団体等の方々のご参加と会員で出席者100名余。功労者・永年活動の表彰を行い、これまでの活動を報告しました。会員は祝賀会の盛会と20周年記念誌の完成は、これからの活動の励みとなると喜びました。


祝賀会功労表彰

祝賀会理事長挨拶


帰化植物をもっと知ろうキャンペーン

旭川帰化植物研究会

 北海道は、自然に恵まれているといわれていますが、その自然もさまざまな理由により人為的に改変されると、在来種を中心とした自然に帰化植物が侵入して新しい生態系が形成される場合があります。外来生物法が施行されたのに伴い、要注意外来生物に指定されたオオハンゴンソウの抜き取りなど各地で実施されるようになってきています。


「身近な帰化植物と環境展」チラシ




帰化植物カルタ

 外国から入ってきた帰化植物に関心を持つ人々が増えてきていますが、まだ十分認識されているとはいえません。そこで少しでも帰化植物に関心を持って自然に目を向けて欲しいと「帰化植物をもっと知ろうキャンペーン」を企画し、「身近な帰化植物と環境展」を実施しました。
 この環境展では、旭川地方には帰化植物は約220種生育しているのが確認されていますが、身近な帰化植物を色別に分けて写真で紹介しました。よく見かける植物について名前が分かったという声が聞かれました。
 さらに雪捨て場、スキー場、住宅地の空き地など身近な所に帰化植物が浸入してきている事例を写真で示しました。特に雪捨て場は、冬の交通事情から考えて、どこかに雪を捨てなければなりませんが、旭川の場合は河川敷に捨てる場合が多いです。ところが、そのまま放置されると、そこに人間に影響を与える花粉症の原因植物であるブタクサが繁茂します。これは帰化植物に関連した環境問題の一つの事例といえます。

 次に、子供たちに帰化植物を通して身近な自然に関心を広げて欲しいと思い、「親子観察会と自分の植物図鑑づくり」を実施しました。子供にデジカメを持たせ、夏休み中に自分で植物を撮影し、プリントした植物の写真をファイルして、自分の植物図鑑を作製しました。植物名は自分で分かる範囲で調べ、分からない場合は植物名は後日教えるという方式で、夏休みの研究として子どもは学校へ提出しました。
 このような方法は、子供たち自身が植物に目を向け、自然に関心を持って主体的に行動しようという態度が育つものと思われ、このようにデジカメを使用して自分の植物図鑑を作成するという内容は、これまでにない新しいタイプの観察会といえます。
 さらに子供向きに「帰化植物カルタ」を作製しました。

※今回、企画した内容は「旭川の帰化植物」(第34報)に報告。



ユウパリコザクラの会・創立20周年記念誌の刊行

ユウパリコザクラの会


ユウパリコザクラ

 夕張岳のスキー場開発が明らかになり、「夕張岳を守りたい」との一念でユウパリコザクラの会は1989年4月に発足 し、本年で20周年を迎えました。

 このたび、創立20周年記念事業の一環として、記念誌「ようこそ花の夕張岳へ」を刊行いたしました。
 この記念誌は当会の活動の記録というよりは、夕張岳の自然のすばらしさを理解してもらえるよう親しみやすい内容にしてまとめています。

 第一部「夕張岳の自然」では、地質・高山植物、昆虫・ナキウサギ等を網羅し、各分野の専門の先生方に協力していただきました。
 第二部「コザクラの会誕生」では、発足当初の目標とした国の天然記念物指定への経緯、交流団体とのつながり、高山植物盗掘防止ネットワークの活動等を掲載しました。
 第三部「未来に向かって」では、夕張岳の天然記念物指定に拘わった、前文化庁の池田氏や、初期からの会員等総勢60名の多彩な寄稿が掲載されました。


表紙イサジコウ A4版160page

 当会としましては、これまで培ってきた経験と、多くの人々の信頼関係や絆を大切にしながら、今後も、夕張岳の保護保全・地域社会のために貢献していく所存でおります。
 今回の記念誌は1,200部発行しました。次代をになう地域の中・高生(夕張市・南富良野町)と全道の市町村(図書館)へ無償配布を行う予定でいます。

 なお残部につきましては一般価格1,500円で頒布致します。
 事務局へお問い合わせ下さい。

 問い合わせ先
  事務局 水尾君尾
  〒068-0412 夕張市鹿の谷東丘3
  TEL・FAX 0123-52-3306



手稲の森と川の生きもの調べと「手稲の生き物マップ」作成

手稲さと川探検隊

 14万人が暮らす手稲区には豊平川のような大きな河川はありませんが、手稲山から石狩湾に直接流れ込む小河川が多くあります。大きな改変を受けて人工的な環境になりつつも、多数の水生生物たちが生息している場所が残されています。当会ではこれまで4年間、地域の子ども達の自然体験の場づくりを主な目的として手稲地域で「川の生きもの調べ」「森の生きもの調べ」をしてきました。この自然を守り育てる観点から、詳細な調査による自然度の把握とモニタリングによる監視と環境改善の検討を行なっていくことが必要と考えました。
 そこで、これまでの「生きもの調べ」に加えて、水生生物を中心とした詳細な比較調査を実施するとともに、『手稲さと川マップ』を作成し、会員以外の市民への普及・啓発も行っていくこととしました。


春の川での「生きもの調べ」



冬の森での「生きもの調べ」

 調査に際しては専門家に指導と詳細な同定をお願いし、会員および一般公募の児童約200名を含む300名の参加で、森で4回、川ではモニタリング調査を含む4回の計8回の生きもの調べを実施しました。実施場所は、手稲山麓の林(手稲本町市民の森、カッコウの森キャンプ場など)や手稲山を源とする河川(住宅街を流れる星置川と中の川、それに中の川の支流で山地渓流の三樽別川および殆ど流れのない山口運河の計4箇所)でした。採集した水生生物の標本は後日ソーティングを行い、調査河川の生物相を概ね把握しました。

 「生きもの調べ」には多くの児童を含む参加があり、春は冷たい水の中、カゲロウやトビケラ、ガガンボの幼虫を、いつもの川ではウキゴリやヤマメ、スジエビやモクズガニを捕まえ、冬の森では増えているエゾシカの痕跡やカエデの樹液などを見つけ、発見し探し捕まえる楽しさを存分に味わうとともに、自然の豊かさや環境による生物相の違いを知り、今後当会のみでモニタリングできるように調査法や同定法も学ぶことができました。今後毎年モニタリングも継続していくこととなりました。

 またどのようなMAPがあればよいか話し合いを重ね、『手稲さと川MAP』を3,000部も作成しました。
 作成したMAPは、今後地域市民や子ども達へ配布を行い、普段あまり関心のない都市部の身近な小河川の生きものの存在と適した環境について普及・啓蒙を行っていくとともに、生きもの調べやモニタリングを通して多くの市民の自然体験・遊びの機会を提供し、この大切な自然を将来にわたって守り、育て、子どもたちが日頃から自然の中で遊び学べるよう、楽しく活動を展開していきたいと考えています。
 事業の運営管理においては、自然体験活動の運営経験豊富な(株)さっぽろ自然調査館の協力を得て実施したため、これまでになく楽しく専門的な活動を実施でき、また多くのノウハウを学ぶことができました。今後の事業運営に大きく活かせるものとなりました。



「森と健康」普及啓発事業(森・健ゼミ)

北の森林と健康ネットワーク

 現代社会では、都市を中心に生活する人が増えていますが、人工的な環境の中での生活は、気付かぬうちに、さまざまなストレスを生んでいます。
 森林が人々のこころや身体を癒し、リラックスさせてくれることは古くから経験的に知られており、今から20数年前には「森林浴」という言葉も誕生しています。人類の誕生から長い間自然の中で生きてきた私たちにとって、森林浴をするということは「人に適した優しい環境の中に身を置く」ということなのです。
 一方、身近な森林との関わりが希薄となる中で、私たちに様々な恩恵をもたらす森林や森づくりへの関心が低下しており、近年の林業生産活動の停滞と相まって、森林自体の活力も失われつつあります。
 当ネットワークでは、森林浴など身近な森林環境を活用することによって森林と人とがともに健康になっていくことを目指して普及啓発活動に取り組んでいるところです。
 その主要な取組の一つである「森・健ゼミ」は、
 1. 森との関わりを通して自らの健康を考え、意識改革と実践につなげる
 2. 森林を活用した健康づくりを推進する人材の育成につなげる
 ことを目的として開催しているもので、森林や健康に関する多様な切り口で専門家のお話を伺ったり、参加者による活発な意見交換を通じ、会員はもとより、一般市民の皆さんにも「森と健康」を考えていただく機会となっています。


森・健ゼミ「人と地域を元気にするフットパス」
話題提供:環境市民団体エコ・ネットワーク
代表 小 川  巌 さん

講演会「森林療法による健康づくりと地域づくり」
講師:NPO法人中頓別森林療法研究会
理事長 住 友 和 弘 さん

 平成20年度においては、3期5回にわたってこの「森・健ゼミ」を開催するとともに、通常総会の場を活用した講演会を含めて、合わせて約200名の会員と一般市民の皆さんが受講されました。

■森・健ゼミ 第1期 ・第1回「人と地域を元気にするフットパス」
        〃  ・第2回「漢方に学ぶ病気予防」
       第2期 「私の見た欧米の森と歩く環境づくり」
            第1部「バリアフリーな森林体験ツアー in コロラド」
            第2部「心身の健康を考える森のツアー in ヨーロッパ」
       第3期 ・第1回「このクルマ時代になぜ歩き旅を」
        〃  ・第2回「森を破壊してまでなぜ文明を」
■講演会 「森林療法による健康づくりと地域づくり」

 なお、森・健ゼミの話題提供や講演会の内容をブックレットや報告書にまとめて会員や関係機関等へ配付したほか、今後、当ネットワークのホームページ(http://www.moriken-net.jp/)でも紹介していく予定です。



弟子屈町立奥春別小学校における自然学習調査事業

川湯自然研究会

 弟子屈町は、北海道東部に位置し、西側は奥春別を経て阿寒火山の山谷を経由して阿寒湖に至っています。その道路は、国道241号線通称阿寒横断道路と呼ばれ、阿寒国立公園の3大湖(阿寒湖〜摩周湖〜屈斜路湖)を結ぶ観光主要道路を形成しています。
 奥春別の周辺の地質は、町内で最も古い地層であり、今から数百万年前の新第三紀にさかのぼり、奥春別を源流とする鐺別川の支流に化石層を産出させる場所があります。今回、奥春別小学校児童13人が、ふるさとの地形や地質がどのようにしてつくられてきたか学習会を行い、石の中から化石を探してみました。
 化石を産出する地層は、シケレペンぺツ層と呼ばれる変朽(へんきゅう)安山岩(プロピィライト)と緑色凝(ぎょう)灰(かい)角礫(れき)岩、緑色凝(ぎょう)灰(かい)岩(グリーンタフ)などこの周辺では、比較的やわらかな岩石に混入していることが多く、タカハシホタテ、エゾイソギンチャクガイ、オオノガイ、エゾシジミガイなどが過去に採取されています。

 今回の調査で採取したのは、タカハシホタテがほとんどでしたが、調査に参加した児童は、弟子屈町が内陸地にあることから、むかしここが海であったことが信じられない様子で、質問に終始していました。
 今回、前田一歩園財団の自然環境保全活動で助成頂き、郷土学習シリーズ4が発行できたことをきっかけに、豊かな自然環境に抱かれたふるさとの再発見に更に感動が加わった事業となりました。