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自然普及事業
Natural Environment Conservation Activities

2010年度(平成22年度)自然環境保全活動助成事業報告


釧路市春採湖昆虫類調査及び報告書作成

釧路昆虫同好会

春採湖は、釧路市民に最も親しまれている公園の一つである。街の中心部に位置し、住宅地や商業地などに囲まれているものの、湖の周辺には緑豊かな自然が一部に残され、多くの植物や野鳥なども記録されている。また、ヒブナの生息地として天然記念物にも指定されている。このため、毎日多くの市民が、湖を巡る遊歩道の散策や自然観察、写真撮影など様々な目的で訪れている。しかし、近年水質汚染が進み、オオハンゴンソウやウチダザリガニ、セイヨウオオマルハナバチなどの外来生物の増加、都市化などにより環境悪化が危惧されている。


湖岸でのトビケラ調査

こうしたことから、釧路昆虫同好会では、釧路市立博物館と共催で昆虫観察会などを開催し、市民と身近な自然との触れあいを推進するとともに、これと並行して、環境保全対策を検討する際の基礎的な資料などを収集するため、会の事業として毎年継続して昆虫類調査を実施してきた。
 その結果、平成16年度から平成22年度までの7年間の調査で、春採湖及びその周辺地域から13目1,082種の昆虫類を記録した。これを分類群ごとに詳細に分析評価し、昆虫類の全採集リストも添付して、「調査報告書」を作成した。さらに、春採湖畔で4年間ほどかけて撮影した昆虫類の中から、比較的よく見られる50種類の昆虫を解説付きのカラー生態写真で紹介した「昆虫観察ガイド」も作成し、「調査報告書」と合本して「釧路市春採湖の昆虫」として発刊した。発行部数は300部で、釧路市内の全ての小中学校及び高等学校、道内外の研究機関、研究者、博物館、図書館などに寄贈した。

「調査報告書」は、春採湖及びその周辺地域の昆虫相が詳細に分析されていることから、当該地域の環境保全などにも貢献するものと考えられる。また、希少種や未記録種と考えられるものもいくつか発見されていることから、研究者たちにとっても春採湖における昆虫研究は重要な意味を持つことになるかもしれない。
 「昆虫観察ガイド」は、小中学校及び高等学校における環境教育や野外活動などに利用されることが期待される。釧路市民にとって最も身近な自然である春採湖は、子供たちの昆虫観察や研究の恰好のフィールドになると思われる。
 なお、「釧路市春採湖の昆虫」の発刊を受け、平成23年7月23日から9月11日まで、釧路市立博物館マンモスホールで特別展「春採湖の昆虫」を開催し、期間中の7月30日には講演会を実施することも決まっている。



根室の小規模離島における海鳥の繁殖状況調査

NPO法人 エトピリカ基金

北海道東部太平洋岸に位置する根室市では、希少海鳥類であるウミスズメ Synthliboramphus antiquus(絶滅危惧1A類)及びコシジロウミツバメ Oceanodroma leucorhoa(北海道東部の大黒島が世界で最大規模の繁殖地)の繁殖記録が小規模離島であるハボマイモシリ島からのみ有るが、近年その状況は定かではない。これらの種は巣穴営巣性であり、人間やキツネ等の侵入に極めて脆弱である。根室市にあるその他の小さな島々ではその生息確認調査がこれまでほとんどなされておらず、そのためそこで繁殖している海鳥が保護の対象にすらなっていない可能性がある。またその他の海鳥についての情報も乏しいのが現状である。よって根室市の海鳥類の繁殖状況および繁殖地の現状を解明するため保護区等に指定されていない無人島である友知島、チトモシリ島、ハボマイモシリ島、カブ島において当事業を実施した。


チトモシリ島での調査模様

当初、事業は6月、7月にそれぞれの島で行う予定であったが、天候及び渡船の都合により安全を重視したため友知島、チトモシリ島では6月、カブ島では7月の実施が困難となり、8月に事業を延期せざるを得なかったが、事業に大きな支障はなかったと考えられる。 
本年は比較的天候に恵まれたこともあり,予定していた事業を完了し根室市の小規模離島での海鳥の現状を把握することが出来た。また今後の当NPOが行っていかなければならない以下の課題をみいだすことができた。

コシジロウミツバメとウミスズメの繁殖の確証は得られなかったが、チトモシリ島においてウミスズメのものである可能性のある巣穴が発見されたため、今後詳細な調査による確認作業が必要である。
ハボマイモシリ島においてはコシジロウミツバメの繁殖個体群が減少した原因と考えられるオオセグロカモメが激減し、コシジロウミツバメ、ウミスズメの繁殖個体群が壊滅した直接の原因と考えられるミンクがみられず、ドブネズミも確認されなかったため、積極的に島への誘引をおこない繁殖個体群を回復させる必要がある。どの島においてもオオセグロカモメの繁殖がオジロワシによる捕食と攪乱により壊滅的な打撃を受けており、今回の調査では雛の確認すらなかった。オオセグロカモメは寿命が最高30年ほどと非常に長く、現在は個体数の極端な減少はみられないが、世界的に見ると非常に分布の狭い種であり繁殖の中心と言っても過言ではない道東でこのような状況が続くことは種の存続に多大な影響が出ることが懸念される。よって今後オジロワシの動向も踏まえてより広範囲で繁殖状況及び個体数のモニタリングをおこなっていく必要がある。
 友知島においてはこれまで知られていなかったドブネズミの生息が確認された。捕獲数が一頭のみであったため現在の個体数は多くないと思われるがウトウが多数繁殖しているため将来的に影響が出ることは否定できないため駆除等の早急な対策が必要である。



「キナシベツ自然保護区」の設置を目的とした生物の調査活動

キナシベツ湿原を愛する会

○ 事業の目的
 調査によってキナシベツ湿原の生物的特徴を明確にし、同地域の自然環境保全のための基礎資料とするとともに、同地域の自然環境を将来的に保全するために、モデルとなる先進地の事例を学習し、自然環境保全に向けたキナシベツモデルの構築を目指す。

○ 生物調査
鳥類調査ではルートセンサス、定点調査、標識調査を併用すると同時に、過去の観察記録等を整理してキナシベツ湿原での確認種リストを作成した。今回の調査で新たに9種確認され、合計は136種となった。
 昆虫類の調査は、ナイトライティング方と目視観察によった。今回の調査で新たに27種が確認され、1997調査の結果と合わせると総確認種数は377種となった。


標識調査によって捕獲・放鳥したコチョウゲンボウ

○ 学習会
I) 国際ワークショップ
キナシベツ・ナショナルトラストの家において、アメリカからの5名、ロシアからの4名を含む20名が参加した国際ワークショップを開催した。ワークショップでは、榊原代表の案内でキナシベツ湿原一帯を視察した後、アメリカとロシアで行われている野外環境教育の紹介(スコット・フリーマン教授、タチアナ・ティカーチュク准教授)、キナシベツ湿原を愛する会の活動(榊原代表)について発表した。これを受けて、アメリカ式、あるいはロシア式の環境教育活動がキナシベツ湿原で行なえるか、活動の方向性についてはどうか、等、参加者による意見交換を行なった。

II) 講演会
1月21日、スコット・フリーマン ワシントン州立大学教授による「私設自然保護区と環境教育~レオポルド記念保護区の取りくみ~」と題した講演会を釧路市立博物館講堂で開催した。この講演会は、環境保護および自然保護活動の先進地であるアメリカ合衆国での事例を学習するとともに、キナシベツ湿原を愛する会の活動を地元釧路市の市民にアピールするために行なったもので、約60名の参加者があった。



自然環境の保全とその適正な利用に関する活動

野幌森クラブ

 1、野幌の森を共生の森とするために、台風などで損傷を受けた森の修復の際には地域性種の樹木・草本が育つような手助けをする。植える苗木は野幌にある地域性種の種から育て、苗にする。そしてそれを森に返す。返した苗が大きくなり、森となるためには補植、草刈、間伐、枝打ちなどの地道で、息の長い作業が必要であると考えています。また、森の住人である多様な生き物が生き続けていることが重要であると考えています。春になると雪解け水の中で産卵する両生類の保護のためにオタマの池の保全作業や冬場に少なくなる野鳥の餌の補給と観察のための餌台の設置、年々失われつつあると言われており、保全が必要である希少種(植物)の調査など現存している生き物の現状把握のための活動をもあわせて行っています。森の生命を持続させるか、枯渇させるかは我々人間側の課題です。そのようなことにならないように野幌森クラブは、会員相互はもとより市民や他の団体などとの交流を重ね、多くの人々に野幌の森の大切さを知ってもらい、連携して活動していきたいと思っています。

2、 第1苗畑は、「野幌の森で取れた種子を発芽させ苗木に育て、野幌の森に返す」ための苗畑として、また、ふれあい交流館来館者への野幌の森にある樹木の新芽・稚樹の展示場所として活用してきました。丈夫な苗木を育てるためには床替え、移植が必要なことがわかり、移植用地の確保が問題になりました。稚樹を森へ返せる丈夫な苗木に育てるためには稚樹を育成する苗畑が必要となり、平成21年度には(面積:南北約20m×東西約50m、約0.1ha)の国有地を借用する事ができ、人力で第2苗畑の造成を開始しました。

しかし、現地はセイタカアワダチソウの生い茂る荒地であり、荒地を肥えた苗畑にするためには種々の農具や多くの肥料が必要であることがわかりました。機械力として耕運機を借用しましたが、会員数不足で、苗畑計画の達成、ひいては森再生の実現が大幅に遅れることが予想されたのです。

3、幸い、前田一歩園財団自然環境保全活動助成事業によって機械力と草地改良肥料を投入することが可能となり、22年度計画の第2苗畑の造成と第1苗畑から稚樹の移植・育成計画は当初以上に実施でき、数年後には健全で丈夫な苗木を「森に返す」ことが出来ると確信しています。
また、第2苗畑での目的は野幌の森で採取した種子から稚樹を育成することと、稚樹を山出し出来るまで(およそ2mの苗木育成)が役目です。出来上がった苗木は「のぽぽの森」や野幌の他の場所に移植され森を創り出します。そのため継続的な採種、播種や苗木の植え替え可能な苗畑の造成がされていなければなりません。耕運機、刈払い機の使用と同時に購入した肥料撒布によって、畝、畦に繁茂する雑草の除草作業には人力による多くの時間や回数が必要となりましたが多種農具の活用で能率的に作業することができ効果抜群でした。播種や移植後の畝、畦に繁茂する雑草の生長はいちじるしく除草作業には参加会員のみならず協力者や経験豊かな人材派遣等の応援を得ました。そして10月には多種の稚苗植え替えや移植によって見事な苗畑に仕上げる事ができ関係者一同満足しています。
 運営管理面でも苗畑に耕運機、刈払い機、その他の農具の保管が認められ助成金増額の有効活用でビニルハウスを設置できたことで、効率的に作業を進める事が出来ました。(資材保管、休憩時の虫除け、降雨時の非難、防寒活用等)効率的な作業を毎年継続できるよう活動終了時には全ての農具、動力機械のメンテナンスは勿論の事、ハウスを降雪から守る雪囲いのための支柱補強やブルーシートによる覆いを実施しました。



河川環境の教育普及小冊子「美幌川の魚たち」作成

美幌町郷土史研究会

かつて、川は人々の暮らしの中心にありました。魚を採ったり、泳いだり、時には洗濯をした場所でした。しかし現在、川と関わりを持つ人は、とても少なくなってしまったように思います。気がつけば、川は排水路と化し、ゴミ捨て場になってしまいました。川に暮らす生きものたちもその数を減らし、命で満ちあふれていた川は昔話になっているように思います。「川に行ったことがありますか」と、こども達に問えば、その多くが「ありません」と答えることでしょう。このままでは、本当の川を知る人がいなくなってしまいます。
 本事業では、このような背景をふまえ、より多くの方に地域の河川について理解をして頂くために、「美幌川に暮らす魚たち」と題し、教育普及用の小冊子を作成しました。第一章では、美幌川の地史や歴史、河川環境について紹介しています。明治と平成の地形図を見比べたり、22年前に採集された魚類と現在の魚類について比較したりすることで河川環境の変遷を伝えています。第2章では、美幌川に暮らす魚たちと題し、アメマス、ヤチウグイ、カワシンジュガイ科貝類、ヒブナなど、美幌川を特徴づける生きものについて写真と共に面白い生態や、絶滅の危機に瀕している状況について紹介しています。


美幌川でのウチダザリガニ駆除作業

また、第3章では、番外編として網走川に暮らすイトヨについて紹介し、トゲウオ科魚類における種の多様性と特異な繁殖生態について伝えています。そして、第4章では、美幌川を守る取り組みとして、ウチダザリガニの駆除活動や駒生川における自然再生事業について紹介しています。特に、ウチダザリガニついては、本種が特定外来種に指定されていることから、在来種のニホンザリガニとの見分け方を中心に在来生態系への影響についても詳しく紹介しています。最後に、第5章では、美幌町のこども達が地域の川を調べる取り組みについて紹介し、身近な川に足を運ぶことの大切さを伝えています。

本小冊子は7月18日から10月31日までの間に開催されている美幌博物館特別展「美幌川に暮らす魚たち」を記念して作成しました。また、作成された教育普及小冊子は、網走管内小中高等学校、関連教育機関(図書館、博物館、ネイチャーセンター、教育委員会、自然環境行政機関など)に無料で配布するなどして、自然教育活動に活用してもらうこととしました。
本事業をとおして、こども達はもちろん、多くの方々が自分たちの暮らしを支えているふるさとの川に対して興味・関心を少しでも持ってもらいたいと望んでやみません。そして、関心を持った川へ、少しでも多くの方が足を運んでもらえれば、この上ない幸せです。



小鳥のさえずりが聞こえる河畔林づくり植樹祭

リバーネット21 ながぬま

「小鳥のさえずりが聞こえる河畔林植樹会」は、地球環境の保全を視野において、平地部での自然林を再生し山と海のつながりがよみがえる樹林造成を目指している。
失われた平地部の自然林を再生する事で、山と海のつながりがよみがえる。
また 健全な森林の存在は、土壌に根を張る・湿潤な土壌の形成により大雨洪水時の流量調整等水環境の健全化に寄与するものです。このような健全な樹林が形成されることにより地球温暖化対策の一つである 二酸化炭素の吸収が山間部のみならず平地でも可能となるものです。


育苗作業

また 当会員の緑の少年団等 子供たちの参加により この子供たちの孫の世代のために取り組むという 自然林再生には 長い時間が必要であることを 念頭に置いて活動しています。
上記の目標を達成するために自然の力を利用した樹林を造成するために以下の活動を、 長年 実践しています。

  1. 生態学混播混植法にのっとり
    遺伝子レベルで周辺の自然林に近付けることが目標としているため植樹地区に近い自然林からの種取りの実施。
  2. 種の播きつけ 
    果肉のついた種子は果肉を除去するなど、種子の種類によって処理し軽石・腐葉土・赤玉石を混合した土を発泡スチロールの箱に入れ種をまく。
  3. 育苗  
    種をまいた苗木が植樹できるまで(樹種によりことなるが2-3年)春から秋にかけて水やり・大きくなった苗の床替え(ポット等に植え替える)・雑草取り等 管理する。
  4. 混播混植法による植樹 
    1サークル(直径3M)に10種類の違う苗木を混播混植し 追跡調査しやすいようにサークルの番号、樹種と位置及び樹高を記録する。
  5. 以前に植樹した樹木の生育調査・雑草取り等の作業を通じて自然林に近い森の造成